海外ランドスケープレポート
University of Greenwich
(グリニッジ大学 ランドスケープデザインコース・マスターコース)
伊藤慎一朗くんの留学レポート
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私の英国留学のきっかけは、大学3年生の時に宮崎で開催された全国都市緑化フェアの英国式庭園の設計から施工にいたるまで携わることができたことでした。この庭園は、英国のガーデンデザイナー、ロビン・ウィリアムス氏がてがけたもので、このフェアで宮崎県が特に力をいれた企画でした。完成したガーデンは植物に関するカラー、フォーム、テクスチャーの用法、フォーカルポイント等、今までに見てきたガー デンとはあまりにも違いすぎ、このギャップは何かを知りたくなりました。その時、 直感的に何か英国へいって学びたい、そんな気分になりました。

それからというもの、英国という言葉には敏感に反応し、たくさんのガーデンやランドスケープの書物にも目を 通すようになりました。大学を卒業したらすぐに英国へ留学する予定でしたが、それは私の頭の中だけの予定で、TOEICもTOEFLEも受けたことのない、英語の全くわからない人間 がす ぐに留学できるわけがありませんでした。当時、インターネットはすでにありま したが、留学に関する情報は現在に比べるとあまりにも少なすぎました。そのため、留学の情報源は英国へ留学経験のある方や留学情報誌から得ました。

その後、私の大学の先輩で、アメリカでランドスケープ アー キテクトとして10年以上のキャリアのある方とお会いする事ができました。その方からハワイのカウアイ島にあ「National Tropical Botanical Garden(米国立熱帯植物園)」Internship Programにまずアプライしてみて はと いうアドバイスをいただきました。その方もこのボタニカルガーデンの出身の方で、 研修後、メインランドのランドスケープアーキテクチュア学科へ進学されたとい うこ とでした。

ボタニカルガーデンは約4ヶ月の間、主に植物学 、園芸学を中心とした分野で世界中から約10名枠の研修生を募集しているところで、英国留学とは正反対の方向になってしまったような気がしましたが、思いきってアプライしてみることにしました。 数ヵ月後に運良く合格通知をもらい、ハワイ行きが決定しました。その後、会社を退社しました。

合格に喜んでいれたのはつかの間で、ハワイに到着した時にあまりにも貧弱な自分の英語力にショックを受けました。はじめの頃は全く皆の言っている こと がわからず、講義も10分の1程度しか理解できませんでした。それも終わりが近 づくにつれて話すことはあまりできなかったものの、講義については少しずつ理解で きるようになりました。食事は全て自炊で、それぞれ宿舎が無料で与えられ、給料が週に200ドルほどもらえました。朝食はきまって、そのへんになっているパパイアやマンゴー、バナナ 、グァバの実などをとって食べました。時には豚の丸焼きをしたりなど、とてもワ イルドな生活をしていました。

1週間のうち3日間の午前中は、様々な国から集められた植物学や園芸学業界の著名 な方々の講義がありました。植物生態学、昆虫学、植物病理学、土壌学、植物考古学、栽培論等その内容は多岐にわたりました。今となってはもっと英語が理解で きていたら楽しかっただろうなという講義ばかりです。
 また、単発的にボタニカルガ ーデンのブランチ(マウイ島やカウアイ島のノースショア)で研修がありました。山 に 登っての植生調査や原生林保護活動、時にはヘリコプターにも乗りました。それ以外の時間はそれぞれの研修生の専門分野の仕事もしくは研究をするようになってい ました。

私の専門はランドスケープデザインで、ボタニカルガーデンのメインエントランスのデザインが私に与えられた仕事でした。 研修の最終日にそれぞれがプレゼンテーション形式で自分の成果を発表しました 。その日はボタニカルガーデンのガーデナーや様々な分野の教授陣たち約80人前後を 前にした発表で、日本人はもちろん私一人でとても緊張しました。私は1週間かけてつくったプレゼンテーション用の文章とデザインボードを読みながらのたじたじの発表でしたが、なんとか無事修了することができました。

私の日本での4年間の大学時代は、総合的かつ合理的なランドスケープデザイン手法を学びました。 それは、対象敷地の調査・分析そして、それらから導きだされた利点、問題点の解決、その結果を統合・洗練化し、デザインをうみだすプロセスです。ここでは、ランドスケープ デザインをする中で最も大切で基本的な事を学ぶことができました。
授業でのプレゼン風景
現在所属するグリニッジ大学院へは、ボタニカルガーデンにいる時にアプリケーシ ョンを提出しました。ここを選んだ理由は英国のランドスケープアーキテクチュア学科系の大学の中で最もアーティスティックな教育をする大学だという評価を聞いてい たからです。私自身が足りないと思っていた部分であり、非常に興味がありました。それは直感であったり、見えない部分の追求であったり、ミステリアスでワクワクする、創造力を かきたてるような、人間のもつ感覚的な部分の追求です。 ハワイから帰国直後にグリニッジ大学からの合格通知が届きました。私はマスターコース(修士号)にアプライしていたのですが、どうやらその前に一年間のランドスケープデザインコースの修了が義務付けられているようでした。

現在は、Certificate of Landscape Designコースの一年目の全てのカリキュラムのデザインプロジェクトや論文、筆記試験等を終えたところです。これを全てパスすれば2年目のマスターコースへと進むことになります。が、筆記試験が思ったとおりで きなくて、ちょっとビクビクしながら結果を待っています。

大学のコースは昨年の9月にはじまりました。1年間のプログラムは1学期と2 学期にわけられ、1学期目のカリキュラムは、

*Landscape Basic Design,
*Planting Design, *Design & Communication,
*Landscape Digital Design,
通年で
*Hard and Soft Materials,

2学期目は
*Site Design,
*Ecology and Conservation,
*Design with Nature,
*Landscape & Garden Design Precedents, 
となっています。

最初の頃は、ボタニカルガーデンの時と一緒で、ほとんど授業の内容がわかりませんでした。今でも理解できるのは授業全体の5,6割程度です。先生の英語のなまりがひ どい時はは1、2割位しか理解できないときもあります。残りの部分は配布されるテキストを読んで理解しています。だいたい週に1度か2度のペースでデザインプロジェクトのプレゼンテーションをするようになっていて、毎回とても皆ナーバスになっています。

所属コースの半分以上の生徒が英国人以外の外国人であり、また22歳位から50歳前後と年齢差も大きいので、デザインやそのプロポーザルでは様々な思想、概念が入り混ざり、毎回とても良いインスピレーションを受けることができます。発表は朝からはじまり、一人ずつの生徒に対して二人のチューターから批評や、もちろん、同じクラスの生徒からも質問がきます。生徒全員が終わる頃には、夕方5時とか6時くらいになるときもあります 。

デザインプロジェクトの一つの例として、SITE DESIGNという授業があります。SITE DESIGNではロンドン市内のテムズ川沿いのエンバンクメントガーデンをリデザインします。生徒一人一人はデザインする前に、チーターが用意した数十人のアーティスト(画家、彫刻家、ミュージシャン、建築家、etc,,,)の中から一人を選び、そのアーティストについて、作品についてリサーチをします。そして、それらアーティ ストから得られたインズピレーションや特徴的な形や色づかい、素材、技術、パターン等を自分のフィルターで咀嚼して、それをA1シートの画用紙一枚と3つの3Dモデルで表現します。次に現場(エンバンクメントガーデン)のサーベイをもとにコンセ プトをつく り、それにA1シートとモデルで表現した形態等を加え、洗練化し、最終的に一つのマスタープランをつくりあげます。芸術とランドスケープデザインの間のギャップを克服する能力や、ものづくりをしていく職能としての洞察力が身につく授業だと思います。

その他、パリ研修、Plant Identification、CAD、ヌードデッザン、カラーセ オ リーについての勉強、写真の現像について、フォトショップを使用したアート作品。 またギャラリービジットという授業で、ロンドン市内にあるギャラリーを十数か 所訪れ、アーティストの作品を観察、批評、スケッチ、それらからデザインへの展開理論 を考察するというものあります。

日本の大学とはあまりにも違いすぎるカリキュラムを複雑に受け入れつつも楽しんで いるといったところです。 ここに至るまでの節目節目でたくさんの方々に助けられてきました。このページを運営する宮川さんにもたくさんのアドバイスをいただきました。大変感謝しています!

まだまだ大学院は修了していませんし、授業内容に関してはおもしろい内容や視点が たくさんありますので、また次の機会に詳しい内容をお伝えすることができればと思います。

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