 現在私は、「ランドスケープを話そう」でもお話したように、グリニッジ大学院ランドスケープアーキテクチャー修士課程終了後、そのまま英国にてランドスケープ事務所で働いています。
英国には丸3年いて、今は家族を呼び寄せて暮らしていますが、英国に来た当初はほんとにトラブル続きでした。今ではそれに慣れ親しんでいますが、特に全てに対する価値観が大きく変わりました。ハワイに住んでいたころはそこまで大きな価値観の差は感じなかったのですが、ここ英国ではとにかく目が点になる事態が多かったです。
郵便局では事務員からお金をだましとられ、スーパーでは定員は無愛想、おまけにおつりをごまかす、サービスしてもないのにサービス料をちゃっかりとるレストラン、電車やバスは時間通りにこない、地下鉄はすぐに故障、それに対して全く怒ることすらしない英国市民、、、まだまだ数え挙げればきりがないですが、これらが紳士の国と思い込んでいた英国から私がうけた最初の洗礼です。
自分自身が描いていた理想の英国とのギャップがあまりにも大きすぎて、この国でランドスケープデザインを本当に学ぶことができるのだろうか?という不安にかられながらの大学院生活でしたが、この2年間は私にとってとてもかけがえのないものでした。そこで今回はこの学校の生活とランドスケープの授業の様子をお話したいと思います。
【グリニッジ大学院ランドスケープアーキテクチャー修士課程講義内容】
*Landscape Professional Studies
:グループにわかれて実際に施行された過去のデザインについて調べます。例えば施工金額、設計から終工にいたるまでの問題点があったかなどを実際に携わった会社に問い合わせ、それをまとめてプレゼンテーションをします。ランドスケープデザインの施工に関する法律について調べ、あらかじめ用意された設問について論文形式でまとめたものを提出します。

*Landscape Engineering
:施工の詳細について学びます。都市のいたるところにある壁やペイビング、側溝などの写真をとり、そこから読みとれる施工図を推測して、かいて提出というのもありました。
*Theme Project
:ランドスケープデザインの代表的なデザイン領域(貯水池、自転車道、アーバニゼーション、公共公園など)のスタディです。テムズ川に注いでいる河川(河川名を忘れました)流域の敷地が用意され、そこの調査をもとにそれぞれの場所に適したスタディ空間をあてはめてデザインします。
*Landscape & Garden Design Precedents
:グループにわかれ過去にデザインされたガーデンやランドスケープのデザインについて調べ、プレゼンテーションします。それぞれが過去のランドスケープやガーデンデザインについてテーマを決め、エッセーを提出します。
ちなみに私は”Between the Landscape Design and Art”という題で、70年代初期からアメリカの砂漠地帯等ではじまった環境芸術とそれに影響をうけてきたランドスケープデザインとその現在にいたるまでの変遷についてのエッセーをかきました。
*GIS for Landscape Planning
:GISとはジオグラフィックインフォメーションシステムの略で都市の情報を網羅したシステムについて学び、またそれを元に実際の敷地をデザインします。
*Urban Development Project
:グループワークです。ロンドン市内の改善、開発すべき地域について話し合い、グループで一つの区域を決め、調査、プランニング、デザイン、またその開発にかかる金額も見積ります。

*Design and CAD/Visualisation
:フォトショップ、CAD、Bryce(3Dビジュアルソフト)など、デザインオフィスで即戦力になるソフトについての技術を高めます。これらのソフトを使用して、グループにわかれ、グリニッジ大学のキャンパスの一区画をデザインします。実際の3Dデザインに時間、音楽、風の動き、天気、空模様などを加え、プレゼンテーションをします。
*Advanced Landscape & Garden Design 1
:最終の卒業プロジェクトの前半で、デザインする敷地は世界中どこからでも選択できます。その敷地についての徹底的な調査をします。(役所のその地域に関する都市計画プラン、植生、歴史、気候、地層、騒音、空気、水質、人・・・デザインする敷地の全ての要素を抽出しレポートとしてまとめあげます。)
*Advanced Landscape & Garden Design 2
:クライアントからの手紙(自分で作成)、前半の敷地調査を元にデザインします。マスタープランと詳細デザイン、モデル、スケッチ、見積などを中心に最後のプレゼンテーションに必要と思われるものをつくりあげます。

*External Exam
:学外から審査員が来て、卒業制作の最終評価をします。卒業制作は卒業の半年くらい前から少しずつはじめました。私は近所にあったテムズ川沿いのサザークパークのディベロップメント計画を卒業制作に選びました。学外審査員による審査は思っていたよりスムースに進み、晴れてこの6月にようやく卒業式を迎えました。
【追 記】
マスターコースのおおよそ半分のプロジェクトは上記のようにグループワークが多く、アーバンディベロップメントや現存するランドスケープ・ガーデンデザインのリサーチ等がありました。
グループプロジェクトがカリキュラムに多く組み込まれているのは、実際に英国のランドスケープデザイン事務所で仕事をするうえで、グループでの協調性が特に重要視されているということだと感じました。企業のだす求人票にも必ずチームプレイヤーであることが強調されています。日本でも何度かグループワークをした経験がありますが、こちらでは個性のぶつかり合いが激しく、グループが一つになることがとても難しいと感じました

やはり一番苦労したことは今でも同じですが「英語」だったのではないでしょうか。モデルづくりやマスタープランなどで徹夜することは全く苦ではなかったのですが、自分の作品をどのように表現するかを英語で考えることはとても難しかったです。特に私の場合は未熟な英語レベルで大学院の門をくぐってしまったので、講義に録音機を持っていって、わかるまで繰り返し再生、プレゼン用の文章を繰り返し暗誦する日々をおくっていました。
【その他:学外活動】
マスターコースは1年目のコースに比べるとプラクティカルな授業内容でした。前の年に比べると時間的にほんの少し余裕があったので、週に1〜2度ケント州にあるデザインオフィスでバイトをしていました。ここは一年目の夏休みにボランティア奉公を1ヶ月くらいしていた事務所なのですが、今度はバイト代をだしますので、来てくださいという連絡をもらいました。
ケントのオフィスはロンドンから電車で40分くらいのところにあったのですが、近くにはホワイトガーデンで知られているシシングハースト・カッスルなど有名庭園がいくつかあり、限りなく田園風景の広がるところで、とても穏やかなまちでした。
ボスいわく、「デザイナーがロンドンみたいなごみごみしたところで落ち着いてデザインできるわけないでしょ。」ということだそうです。確かに社員も皆、ガツガツしていなくて、ゆったりとおおらかな人ばかりでした。
ある日こんな事がありました。オフィスは次週月曜日がデッドラインの仕事でいつもよりは緊張の空気が漂っていました。お昼になってボスが皆をパブに連れて行ってランチをはじめました。私も大丈夫なのかなと思いつつ、一緒に行ってランチをごちそうになりました。
すると今度は皆ビールを飲み始めるじゃないですか。それがなかなかオフィスに帰る様子がないので、デッドラインは大丈夫なのですか?とボスに聞きました。すると、「だって今日は金曜日でしょ?」という驚くべき返事がかえってきました。そのあとはどうなったか言うまでもありません。後日デッドラインの事を聞くと「ああ、あれは火曜日に延期してもらったよ。」
これは極端な体験だと信じていますが、とにかく英国人はいつもマイペースで仕事をしているというのが私が感じたことです。もっと効率よく、もっと急いで、もう少し残業すれば、利益は必ずあがるような気がするんですが、あえてそれをしないといいますか、したくないのかもしれませんが、、、
まず、ライフスタイルがあって、その中で仕事があってという感じです。仕事の奴隷には決してなっていなですね。あとおもしろかったのが、ここのオフィスでは週末になるにつれてだんだん皆がニコニコ仕事をしはじめて、金曜日の午後あたりになるとピークをむかえ、ボディランゲージが高まるんですよね。最近は私もこの気持ちが理解できるようになってきました。
ここのオフィスではフランスやイタリアにある公共公園、ケント州の中の大きい都市計画や環境インパクト調査、ロンドン市内の病院や集合住宅計画など、多くの国の様々なプロジェクトに学生ながら携わることができてとても良い勉強になりました。
大学院の授業とデザインオフィスのバイトを平行したため、結局また時間との戦いで自分の首をしめてしまいましたが、そのぶんオフィスの同僚に法律やデザインプラン等に関するアドバイスがもらえたり、大学でのスタディをすぐにデザインオフィスで実践できる機会にも恵まれました。特にデザイナーにとって時間のマネージメントがいかに大切かということを学ぶことができました。
卒業後は就職先を探しはじめるわけなのですが、またそのことは現在働いているオフィスの事も含めてまたレポートさせていただきます。
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